細川珠生website
最終更新日 2007年5月31日
■HOME ■MailMagazine ■Contact
ColumnPublicityProfileLink
著作紹介

掲載紙・誌紹介

講演活動 メールマガジン 執筆・取材依頼
掲載紙・誌紹介
「Viewpoint」
世界日報(2007年3月22日付)

大物都知事に抜けた視点

石原氏の話題づくり政治手法
 当初は候補者の顔ぶれが乏しく、統一地方選の幕開けとなる東京都知事選が盛り上がりに欠ける状況にあったことから一転、浅野史郎前宮城県知事の出馬により、一気に関心が高まった。一時は楽勝ムードすら漂っていた三選を目指す石原慎太郎都知事も、一般常識をはるかに超えた豪華出張や公人にあるまじき身内優遇の公私混同ぶりなどに対する批判の声の大きさに謙虚にならざるを得ず、他候補すべてが反対の意向を示す東京五輪誘致など、今や自信に満ちたいつもの石原氏の姿は隠さざるを得ない状況だ。
 共産党の吉田万三元足立区長の出馬は想定内としても、石原氏の友人である建築家・黒川紀章氏の出馬の意外さに、都民のみならず国民の興味を引いたが、何より浅野氏の出馬によって都知事選にも都政にも一層の関心を高めることになった。浅野氏は宮城県知事時代、多方面で積極的に発言をし、マスコミへの登場も数え切れず、“改革派首長”としての注目度は、石原氏に負けないものがあった。そうはいっても、石原氏は国会議員を二十五年以上務めたベテラン政治家であり、立ち振る舞いを含めた大物ぶりは、他の候補者と比較にならない。つまりこれまでの二期八年の石原都政は、都民が石原氏の大物ぶりに賭けてきたという選択であったともいえるのであろう。選挙での強さ、行政手腕など、首長に求められる資質以外にも、東京都知事には、世界の大都市、日本の首都・東京としてふさわしい“大物”としての風格や知名度も必要で、裕次郎の兄、元運輸大臣、芥川賞受賞作家、息子も国会議員や俳優などの“形容詞”を持つ石原氏は、その意味からは適任の要素がそれなりにあったということだ。発言は全国規模で注目され、政策の良し悪しより話題性を高めることでその実現を図ってきたのが、石原氏の手法であったのではないだろうか。

注目集めに傲慢な発想ないか
 「大手銀行対象の外形標準課税」構想や都の独自認証制度による「認証保育所」など、一見国に先駆けた施策を行ってきたかのように思えるが、本当にそうであろうか。国は、大手銀行のみを対象とするのではなく、一定規模の法人を対象として同税を導入したが、石原氏はそれを見込んで打ち上げたのではないだろう。当時の、国民からの銀行への批判にこたえるためだけに、銀行をある種狙い撃ちしたということではないだろうか。
 認証保育所制度は、都が民間の保育所に補助金を出すことによって、公立保育園なみの保育料で利用することができるようになったのだが、確かに、母親にとってはありがたい取り組みともいえる。しかし、母親が就労していることは条件ながらも、就労先から発行される就労証明ではなく、紙一枚の自己申告でもよく、母親の子育て放棄を助長する環境整備となったともいえるのだ。結局は、公立の保育園のように、母親がフルタイムで仕事をしている人(していると見せかける人)を優先とするため、できるだけ子供と一緒に過ごし、子供の教育をしっかりとやっていこうという母親には、何の手助けにもなっていない。
 平成十五年には都立高校の学区制を撤廃し、都内全域で受験が可能となった。ここまではよかったのだが、その後、都立高校復活を掛け、名門大学の進学率を競うようになり、それだけが理由ではないものの、未履修問題は深刻を極めた。
 二期目の石原都政は、「新銀行東京」設立や夏季五輪の招致、東京マラソンの開催など、今更「官」が、今更「東京」がと思わずにいられないような施策を次々発表し、常に話題を作るだけの施策は、ますますその傾向が強まった。東京一極集中は進み、大規模開発、競うようにそびえ立つ高層ビルが、あたかも東京が活気づいたかのように思われている。建物を高層化することで新たな緑地がうまれるというが、高層ビルの谷間など、ビル風が強く、とても子供を遊ばせることなどできない。そもそも、オフィス街の高層化を図ったところで、住んでいる人も少ないのに、だれが恩恵を受けるのだろうか。
 東京を世界から注目される町にしよう――石原氏の頭の中は、常にそんなこと“だけ”がうごめいているのではないだろうか。そうすれば住んでいる人々、つまり都民も自分の街を誇りに思うと考えているとすれば、その発想がすでに傲慢だ。都民が何を求めているのか、そんな当たり前のことにどれだけ耳を傾ける努力をしてきたのだろうか。

有権者は課題に関心と責務を
 世界の東京といえども、そこに住む都民は、まず暮らしの快適さを求めるはずである。子供を元気に外で遊ばせることのできる環境があるかどうかは、環境対策、治安対策、住宅政策などを抜きに実現はできない。高齢者や体の不自由な人でも快適に、その人らしい生活ができるためには、福祉政策だけではなく、都政全般にその視点を盛り込まなくてはならない。日本を代表するような大企業から中小零細企業まで多くの企業活動が行われる東京は、企業の規模にあった施策が必要であろう。教育機関の多さを武器に、国公私立学校それぞれがさらに教育内容の向上を図っていくことを促さなくてはならない。石原知事が都政を行う上で抜け落ちていた視点はいくつもある。さらに、地方分権の波を東京から発信するとすれば、都と市区町村の役割分担を明確に行うことだ。
 有権者である私たちは、都知事選のみならず、これから一ヶ月余りの間繰り広げられる統一地方選を通じて、自分の住む町のことはもちろんのこと、国としての諸課題にも関心をもち、有権者としての責務を果たしていくことが重要である。


Copyright(C) 2001-2005 (有)パールオフィス. All rights reserved.