細川珠生website
最終更新日 2007年5月31日
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「Viewpoint」
世界日報(2006年10月3日付)

安倍総理の適材適所に思う

強みと課題を併せ持つ“若さ”
 在任期間千九百八十日、歴代三位の長期政権となった小泉政権が幕を閉じ、安倍新政権が発足した。第九十代内閣総理大臣の安倍総理は、戦後最年少、かつ、第二十一代自民党総裁としても同党史上最年少でそれぞれ就任し、日本もようやく若い世代に仕事を任される社会になったことに、喜びさえ感じる。
 しかし、安倍総理に付きまとう「最年少」という“形容詞”以上に私が驚いたことは、政治家歴がわずか十三年の安倍氏が、総理大臣というトップに登りつめたことである。ただ、安倍総理が初当選をした平成五年の細川政権では、総理大臣が衆議院議員初当選であったということもあり、安部総理誕生は「史上最短」の総理就任という“記録”にはならなかった。しかし、細川内閣は、自民党が下野し、それ以外の八党派連立政権で、結果として八ヶ月という短命内閣に終わり―どんな内閣にも歴史的重大な意義はあるが―ある種、特異なケースともいえる。それを考えると、自民党の五十年以上の歴史の中で、しかも前任の小泉政権が五年五ヶ月という長期政権が続いてきた中で、多くの先輩議員を追い越し、一気に“若い”安倍総理が誕生したことは、私のような若年の政治ジャーナリストからみても、一時代が過ぎたような感慨深いものがある。
 “若さ”に多くの期待をするが、同時に若さ故に何がこの政権に足りないのかを見いだすことが、安倍政権がどれだけ国民のための政治を行えるかの鍵を握ることになるのではないだろうか。

財政論からの教育改革は疑問
 総理になるまでの安倍氏は、自身の考えを率直に、積極的な姿勢で語ることが多かった。特に安全保障や憲法については、簡単に言えば、「自分の足でしっかりと立つ」というような他人依存ではない骨のある国家観を持っている人である。それ故に、総理になってからの初仕事である組閣人事においても、強烈なリーダーシップを発揮して行うのかと思ったが、「調和型」の組閣であったことが意外であった。しかし、それは「論功行賞」の批判はあるものの、小泉前総理のように、血も涙もないような人事を含めた政権運営ではなく、恩情には報い、人間関係を大事にする「和」を尊重した政権運営を目指しているということなのかもしれない。
 その反面、「適材適所」には疑問を感じる面々となったことには不満が残る。安倍内閣では、文部科学大臣が一つの目玉と言われていたが、就任したのは、旧大蔵省出身、過去にも文部大臣を務めた伊吹文明氏である。今、教育改革を行うにあたって最大のネックは、財政論からみた教育改革、つまりいかに教育予算を削るかという視点が尊重されていることである。国民からも教育改革への期待が何より高く、国際的にみても、対GDPで先進国最低の割合であるにもかかわらず、毎年前年比四、五パーセント減の教育予算を、さらに減らそうとしている実態がある。もちろん、教育予算の中身や配分においては見直すべき点もあり、実際に中教審などでもそれらの議論が行われてはいるが、財政の“専門家”でもある伊吹大臣が、財政論ではない教育改革を本当に行えるのだろうか。伊吹大臣と同じく、旧大蔵省出身の柳沢伯夫厚生労働大臣の就任にも同じことが言える。
 また、「経済財政諮問会議」の内閣における発言力は絶大なものがある。どんな政策も、毎年の予算編成の方向性である「骨太の方針」に拘束されることになり、その策定を行っているのが同会議である。「骨太の方針」は閣議決定事項であるが、予算の大枠の決定権を持つのは、同会議であるということだ。その会議の主導的役割を果たすのが、小泉政権発足当時の竹中平蔵氏と同じ民間の学者出身・大田弘子氏では、同じ批判が繰り返されることにはならないだろうか。この役割には議員が責任を持ってあたるべきである。

決断力持ち「二重構造」に挑め
 適材適所にはやや不満が残るものの、首相補佐官を増員し、彼らに安倍政権の重要な政策課題を担当させることにしたのには大いに期待できる。こちらの人事は適材適所に配置されたと思うが、各省庁を代表する内閣との役割分担や力関係はどうなるのだろうか。また自民党の各部会は政府の政策立案に多大な影響力を持つ。さらに、その時々でプロジェクトチームが自民党単独や公明との連立与党として設置され、ここでも似たような議論が行われる。
 特に、政府と自民党の「二重構造」はこれまでも問題視されてきた。例えば、中教審などの政府の審議会が、大臣の諮問を受け懸命に議論しても、自民党の政調会長などの“実力者”の一声で、いとも簡単に曲げられてしまうこともある。本来なら、自民党の各部会長が副大臣など政府の役職を兼ねることで政府の立場としても責任を待たなければならないが、そこまでの変革がなかった今回の組閣人事で、これらをどう調和させ、かつ最善の政策を作れるか、まさに安倍総理大臣の決断力が問われてくるだろう。
 総理大臣を除く十七人の閣僚のうち、初入閣は十一人。安倍内閣としてやる気に溢れた人材を責任ある立場に置いた新政権は、若さを強みにしながらも、広い視野と調和の精神をもつ熟練の手法をあわせもつことが必要である。若さだけでは何の“武器”にもならないことを肝に銘じるべきである。


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