最終更新日 2005年9月8日
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「食卓の記憶」77 谷垣 禎一氏
(「週刊文春」2005年7月28日号)

『子供のころに学んだやりくり』

 いくつの時か忘れましたが、小学生の頃の私の誕生日に、父が鶏を十羽買ってきたんです。この十羽は私が責任を持って飼うように言われました。私はその鶏が産んだ卵を、一個十円で売って、その代金で飼料などを買う。まさに、“独立採算制”です。一日に七、八個産んだと思うので、全部売れると小学生にとってはいいお小遣いになる。時々、母にも売りつけて、目玉焼きを作ってもらったりしましたよ。
 卵の殻が薄いとカルシウム不足だということで、アサリやシジミなど、晩ご飯の味噌汁に使ったものなどを細かく砕いて餌にまぜたりしながら、商品性を高める努力も随分しました。
 当時(昭和二十年代)は、東京でも庭で鶏を飼っている家庭は珍しくなく、近所でもそういう家がいくつもありました。今ではあまり見かけなくなった野良犬も多く、群れを成して鶏を食べてしまうんです。一日一軒ずつ廻るので、数えると大体いつごろ自分の家にくるかわかる。そこで、父と相談して、鶏小屋の周りに針金を張り、そこに電流を流すことにしたんです。そのお陰で、我家だけは野良犬の撃退に成功。しかも、その材料は父が買ってきたので、私の“儲け”からは引かれずに済みました。
 鶏をプレゼントしてくれたのも、農水省の役人だった父に、都会だからこそ食べ物や生き物の大切さを体験を通じて教えていこうという教育方針があったからではないかと思います。
 この経験は、意外にも大学時代、山岳部で食糧係をしていたときに大いに役立ちました。大学二年生の時に食糧係として合宿の時の食糧確保を任されていたのですが、どんな仕事かといえば、一人一日、包装も入れて八百グラム、これで三千カロリーを確保し、一人あたりのコスト内に収めるには何を用意したらいいかというのを、女子栄養大学の食品成分表とそろばんを持ちながら計算し、考えるのです。食糧・栄養の確保と食費のやりくりですね。例えば、重くなくて蛋白質を確保するには何がいいかと考え、高野豆腐を使ったカレーライスを作ってみました。ところがとっても不評で、わざわざ高野豆腐だけよけて食べている部員もいましたね。また常に空腹なので、油断していると一日の分量を超えて食べすぎてしまう。合宿の間、食糧が足りなくなることのないよう、毎晩テントを回って在庫チェックするのも食糧係の役目でした。何だか財務大臣の仕事と似ているような気もします。
 山で山菜や魚を獲りながら食糧を確保することもありましたが、それはあくまでも彩り。準備した食糧を不足することなく全員に行き渡らせ、しかも安く軽く上げるというのは、子供のころの鶏の飼育が少しは参考になったのかもしれません。
 (取材・構成  細川珠生)


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