最終更新日 2005年10月2日
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「食卓の記憶」61 佐々木憲昭
(「週刊文春」2005年3月31日号)

『北海道の凍れる美味』

 私は、幼い頃オホーツク海に誓い北海道の佐呂間町に住んでおり、小学校四年のとき、函館の隣町である上磯町に引っ越しました。佐呂間は、冬には零十何度になるような寒いところでしたが、夏には自分の家の畑を始め、山や川を駆けずり廻り、自然が全て遊び場のような生活でした。田んぼでは「カエルの大合唱」。妹たちをリアカーに乗せて遊んだり、畑に行き、おやつ代わりにトマトなどを取って食べていました。それがとてもおいしかったですね。
 取り立てのじゃがいもやかぼちゃ、とうもろこしを大きな鍋で蒸かして食べた味は、今でもなつかしく思い出します。
 秋にはガキ大将を先頭に、友達数人と山に探検に行き、山ぶどうや木の実などをとったり、川では小魚をすくったり、まるで大地との区別が付かないような自然と一体の子供時代だったのです。少し寒くなってくると薪ストーブのやわらかい暖かさの中で、妹たちと四人でストーブを囲んで食べるおやつも格別でした。
 冬は、近くの山で暗くなるまでスキーをしました。また春が近づいてきて、雪の下から緑色の新芽が見えると、「あっ、春だ!」とワクワクするような感覚。食べ物だけでなく、生活全てに季節感があったように思います。
 本州の人たちはあまり知らないようですが、北海道では大変ポピュラーな“いずし”という食べ物があります。「飯鮨」と書きますが、これは子供のころから私の大好きな食べ物の一つでした。
 鮭やホッケをメインに、炊いた米と一緒に発酵させたもので、白菜、にんじん、大根などの野菜と合わせて作った押し寿司です。今でも上磯町に住む八十三歳の母親が毎年冬になると自分で作って送ってくれます。お袋の味ですね。ビールを飲みながら食べると最高に美味しい!
 また、似たような具材ですが、ぶつ切りにした大根と、薫製にしん、キャベツ、にんじんなどを米こうじと重ねて作った北海道独特のお漬け物。「にしん漬け」です。これを氷が張るようなシャーベット状で食べると、すごく美味しいんです。
 北海道は半年ぐらい雪のある生活ですから、要するに両方とも、冬の間の野菜摂取の為に発案された、北海道ならではの食べ物なのだと思います。だから、暖かい土地で食べても、あまり美味しくないというか、ちょっと違う食べ物になるような気がします。漬物の大根も、外気温で自然に凍って、氷と一緒にバリバリ食べるからこそ美味しい。ぬるい大根では駄目なんです。ですから同じ母の手作りの漬物やいずしでも、上磯町でたべると、断然ちがいますね。
  (取材・構成  細川珠生)


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