最終更新日 2003年1月14日
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週刊 世界と日本(2001年6月4日付)

「『地方自治体 意欲的な首長たち』
国も導入評価制度 三重県北川知事が先鞭」

『変えなくちゃ』はこちらが元祖

 「改革断行」という言葉が小泉総理の専売特許のようになっている。過激な"小泉ブーム"も、人々から冷静な目を奪わせて、何か危険な香りがするのは私だけだろうか。まだ、改革の中身と手法が見えない中で、本物の改革は地方から既に始まっている。地方発の「改革断行」−そのキーポイントを紹介しよう。
 「脱・ダム宣言」「脱・記者クラブ宣言」と何かと話題を振りまく、長野県の田中康夫知事。人々の地方自治への関心も、田中知事の誕生で一気に加速したようだ。
 また、メディアに取り上げられることの多い石原慎太郎東京都知事も、地方自治の改革の分野では、彼らはかなりの後発組で、それより以前から、目立たないところで、地道に改革に取り組んできた知事や市長は、実は何人もいるのだ。彼らの活躍振りが、田中知事や石原知事を誕生させた一つの理由ではないかと思う。
 「東京から日本を変える」「長野から日本を変える」と息巻く二人よりも前から、どんな人が地方自治の改革に取り組んできたのか、本物の「改革派首長」の行う取り組みをいくつか取り上げたい。

 『生活者起点』で

 地方自治の改革で、首長が誰かということは大きなポイントだ。それは、首長は「大統領型」ともいわれるように、自治体の中で絶大な権限を持っており、その大きな権限を持つ首長の方針次第で、地方自治はいかようにでも変わり得るからである。議会というチェック機関があるとはいっても、方針を打ち出すのは首長であり、議会側から政策提言を出されることは、ほとんどない。
 ここ2,3年、政策提言型の議員集団が各地でみられるようになったが、それでもまだまだ知事による政策提言が多い。つまり、首長がどんな施政方針をもっているかによって、地方自治は大きく変わる。
 改革派首長の一人、三重県の北川正恭知事は、平成七年に知事に就任してすぐに、行政評価の導入によって三重県の改革に取り組み始めた。行政が、今まで決して行うことのなかった「評価」という方法を、「生活者起点」という視点から取り組むことだ。
 つまり、三重県が行う事業が、どれだけ三重県民の満足度向上につながっているのか、それを住民側の視点に立って評価するということ。生活者起点という考え方をベースにして、全事業を毎年チェックしながら、必要であれば、見直しや中止も躊躇しないというものである。
 手法や考え方の違いはあるものの、現在では全ての都道府県で、何らかの評価制度を導入しているが、三重県は評価制度における日本の先駆自治体であり、三重県での取り組みが、全国の自治体、また国の政策の中に取り込まれたことを考えると、まさに「三重県から日本を変えた」一例であることは間違いない。

 広報紙に工夫を

 信じられないことだが、行政評価を導入するまでは、行政では、一度事業が決まれば、それがうまく機能しているかなどをチェックすることは皆無だった。しかし、三重県では今や、毎年事業を評価することで、重複している事業や時代の変化によってその必要性が低下している事業を見直したり、中止をすることも珍しくない状況になっている。それは税金を負担している県民や国民全体にとっても、望ましいことである。
 また三重県では、これらの評価を書き込んだシートを公開しているが、これは行政評価に取り組むならば、当然のことである。「生活者起点」というからには、生活者である県民が納得する評価結果でなければならず、県民にはそれを確かめる権利があるのだ。
 この「公開」という姿勢も、改革においては非常に重要なポイントである。高知県の橋本大二郎知事は、知事室のインターネット中継を行っているが、それ以前から知事交際費を積極的に公開するなど、オープンな行政運営に努めている。
 また、北海道ニセコ町の逢坂誠二町長の町長室は、田中康夫知事よりずっと前から、ガラス張りだ。また逢坂町長は「情報共有」という視点に立ち、町がもつ全ての情報は住民と共有するものと考え、町民は公開請求手続きなしに情報を得ることができるのだ。
 特段のアクションを起こさない住民にとっては、新聞の折り込みとして配られる広報紙によって、行政の取り組みやサービスを知ることになるが、見られたくないために作っているのかと思うような東京都の広報紙に対して、品川区の広報紙は、多すぎない情報量の中で、エッセンスをわかりやすく、チャートや色使いの工夫によって説明している。この努力は、他の自治体の広報担当者にも、ぜひ見習って頂きたい点である。
 群馬県太田市の清水聖義市長は、市長選で市庁舎建て替え問題を争点に戦った。二十一階建て、総事業費三百億円の豪華庁舎の建設を進めていた前市長に対し、清水市長はこの見直しを公約に市長選に出馬。当選後、既に着工済みだった建て替え計画を中止し、十二階建て、総事業費も半分の百五十億円という計画に変えた。現在は、既に新庁舎の完成から二年たつが、当初の計画の約半分の規模でも、手狭な様子は全くない。
 清水市長は、これ以来、「おかしいと思ったことは全て変える」ことに徹する。例えば、太田市では「風通しが悪くなるから」と、助役を置いていない。これは市長就任以来ずっとである。助役を置かないことで、年間二千万円の経費削減となるので、その分を、小学校三、四年生の算数の授業に二人ずつ置く先生の人件費に充てている。この時期、算数の授業がわからないために登校拒否児童が出てきてしまうことから、その対象にするためである。
 人口約十五万人の太田市には、助役がいなくても、行政には特段の問題はないようだが、政令市のような人口の多い都市には、助役を廃止してしまうのもなかなか難しいだろう。しかし、誰を助役とするかは、首長の腕のみせどころでもある。

 札幌市の助役は

 例えば、札幌市は、今年4月から、助役に民間人を登用した。元北海道大学工学部長の福迫尚一郎氏は、かつて大学革命にも取り組み、学内での大反対にあいながらも、教師の自己評価や生徒による授業評価を行ってきた。その精神を今度は札幌市の中で生かしていくことになる。まだ就任して二ヶ月足らずであるが、市職員の話によると、「(市役所内に)風通しがよくなってきたという雰囲気がある」とのことだ。
 政治や行政への批判は、絶えることなく続いている。何かあれば、公務員の不祥事、政治の失態などが表面化し、そのたびに国民は権力者に対する嫌悪感を抱く。
 もちろん、モラルを逸脱した行動は許されるべきものではないが、不祥事などを教訓に、そこから「変わろう」という決意を持つならば、やはり上に立つ人がリーダーシップを発揮して、よい方向に導いていかないとよくならない。
 よい方向に導くのには、いろいろ方法がある。例えば、ここにあげたように、首長が自らの施政方針を明らかにし、隠し事なく全てをさらけ出し、住民の立場にたって事業やサービスの意味を考えるケースもあるだろう。そして、それらの考え方を積極的に職員に浸透させていくことが重要である。
 つまり、首長(リーダー)がそこで働く人々をいかに動かしていくかが大事なのである。筆者が今まで取材してきた多くの首長は、その点について、相当のエネルギーを費やしてきた。自分だけが突っ走っても、あとから誰もついてきてくれなければ、改革は実現しない。
 小泉政権の「改革断行」が真のものとなるか、あるいは、田中知事、石原知事が突っ走るだけで終わるのか、そのような視点からながめていきたい。


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